■ 4月9日(水) 9.Apr(Wed)
【概要】
この日は、午前中に6年生のウズベク語クラスで授業を行い、その後10年生のロシア語クラスの授業を参観した。授業後に担当の先生に指導法についてのアドバイスを行った。午後は、この日がアムールティムールの誕生日を祝う日ということで、ウズベク語クラスの生徒たちによるイベントが行われたのでそれを参観した。とても感動的なイベントであった。
■6年生の授業
担当者からは、今やっている「生活の中にある数学」の「単位当たり量×いくつ分」というところをやって欲しいとのことだった。今回、日本からリンゴとバナナとサクランボのカードを大量に持ってきていたので、それを使うことにした。まずそれぞれの価格設定を行い、3種のカードを黒板に大量にばらまいて、合計金額はいくらか、そして、これを日本円にするといくらか、という問いを立てた。まず仕分けして表にまとめ、横方向はかけ算、縦方向は足し算という、量ベクトルの内積のような考え方について説明した。その後ネットで
1som=0.01121円であることを調べ、換算してゴールとした。桁の大きな数のかけ算に生徒は苦労していたが、正確に計算することも大事だけど、その結果から、日本に行って買い物するときは概ね100倍して考えればいいというイメージが持てればいいよという話をして締めくくった。
■ アムールティムールの誕生日を祝う日
開始前、会場の6階のホールに入ったら、音響担当の生徒が私の顔を見て、気を利かせて、Youtubeから日本の歌(春が来た・さくら・バラが咲いたなど)をみつけて流してくれた。すると、期せずして子どもたちの合唱がおきて感動した。男の子による4か国語で行う朗読、ティムールの人となりを表したショートスキット、伝統的な踊り、空手の演武、ティームールを偲ぶ歌、ティームールに関するクイズ大会、等々、次々とパフォーマンスが繰り広げられました。私の講評の場面で、どのくらい練習したのか聞くと、2~3日で仕上げたとのこと。先生と生徒が区別なく、一体となってつくりあげていること、そして全員が笑顔であること、最高のパフォーマンスであった。
■ 10年生の授業
10年生の授業は2次関数のグラフの描画の場面であった、ここが日本とウズベキスタンの数学に対する考え方の違いを象徴的に示しているところではないかと以前から思っていたので、興味深く授業を参観した。日本の場合は、グラフの対称性、2乗に比例する性質、そして平行移動という考えに基づいてスモールステップを踏んで説明していく。中でも平方完成はかなり丁寧に説明する。一方、ウズベキスタンでは、図形的意味や関数の性質にはあまりフォーカスせず、軸の方程式を求める公式から頂点を決定し、あとはいくつかの点の座標をピックアップしてつなげてグラフ化するという教え方のように感じられる。皮肉をこめて言うと、人間計算機のようにひたすら代数計算によって「手で解決する」という形である。なので、教科書に書かれている2次関数のグラフも非対称だったり、先が奇妙にとがっていたりする。私は授業に介入して、日本の場合のグラフの書き方を示したところ、担当教師はとても感動してくれたのだが、生徒は私のやり方は難しいという。私はここになんらかの進展を生み出すヒントがあるように思う。
生徒は軸の方程式を公式で求め、対応表でいくつかの格子点を求めた後、グラフを描きにいくが、途中で手が止まってしまう。
スマートボードにあるのは、先生が描いた模範の図。なぜか尖っていたり、対称性が意識されていなかったりする。右は日本の標準的な解き方。
4/19のタシケント市内の数学科研修会での説明資料として作ったもの。左がウズベキスタン、右が日本の教科書。
■ 4月10日(木) 10.Apr(Thu)
【概要】
午前中はウズベククラスの3年生の授業を担当の先生と共同で行った。数学科の研修会を行う時間をとるのは難しいので、このように先生とコミュニケーションをとりながら授業をしていくのがシンプルに持続できるレッスンスタディではないかと思う。その後、ロシア語クラスの3年生の授業を参観した。そして、6時間目は、1年生から4年生によるミニ運動会を見学した。今後、日本のような大規模のものにしていくのか、検討材料の一つであろう。
■ 3年生の授業(ウズベク語クラス)
速さと距離と時間の関係についての授業である。担当の先生が教科書の内容を説明して、いくつかの問題をみんなで解いた後、私が引き継いだ。私が取り上げた問いは「弟が50m/分で家から学校に向かい、その4分後に、兄が70m/minで追いかけていくと、弟が出発して何分後に追いつくか」というものである。s,v,tを適所にあてはめて計算するだけではなく、動的に、かつ複合的に考えて、「今は〇〇の状態、このままいくと、将来は〇〇になる」という、関数や微分を展望する内容にしようと思って作った問題である。「このままいくと」というのが、瞬間の速さであり、直線の傾きであり、微分係数(あるいは微分方程式)につながっていく。単発に答えを出せる問題ではないので、「考える」ことが必要である。最後にアニメーションを見せながら納得してもらった。
■ 3年生の授業(ロシア語クラス)
私は子どもたちと一緒に授業に参加した。内容は立方体の展開図と見取図、表面積や体積の話であった。ロシア語での授業が進むが、子どもたちが先生の話していることを英語で私に通訳してくれる。アイスブレイクの記憶力ゲームが凄かった。30枚くらいの動物などの絵が描いたカードをボードにランダムに貼り、生徒が顔を伏せている間に先生が1~2枚抜き取り、紙の配置もバラバラにする。目をあけて何が無くなったかを当てるというものである(写真下右)。私は全然わからなかったが、子どもたちはどんどん当てていく。子どもたちのノーリミットを感じた。授業後、ある生徒が、笑顔でやってきてノートを切って作った立方体を私にプレゼントしてくれた。嬉しくて愛おしくて捨てられない。
■ ミニ運動会
ポカポカと心地よい陽気と、晴れ渡る空の下、子どもたちは溌溂としていてこちらも元気になった。
■ 4月11日(金) 11.Apr(Fri)
【概要】
本日のメインは9年生の三角関数の授業である。担当の先生と共同で行った。また、JISのメディアインタビューがあり、ここまでのJISでの体験を踏まえて感想を話した。ところで、4月19日に、NGEAという企業がタシケントの数学科教員を対象にセミナーを開催され、私は模擬授業や講義などを行うことになっているのだが、この日、主催者より、告知の動画が公開された。
■ 9年生の授業
アキム先生の説明後バトンを受け、三角関数の不等式の問題について、グラフではなく単位円を使う方法で説明した。というのは、生徒のノートなどを見たとき、グラフの描き方に時間がかかり過ぎ、なおかつうまく描画できていないこと、弧度法に慣れていなくて度数法に変換して考えていること、有名角の三角比を単位円で考えるのではなく単に暗記していること、などの問題点を感じ、これは単位円を使いこなすことが解決の手助けになるのではないかと思ったからである。単位円問題はウズベキスタンだけでなく、日本でも同じことがいえる。
三角関数は、どうしても最初に習った(刷り込まれた)方法から抜け出せなくなる生徒が多い。柔軟な考えをもって、グラフと単位円をいったりきたり使いこなせれば盤石である。
■ メディアインタビュー
■ 4月12日(土) 12.Apr(Sat)
【概要】
12日の土曜日はオフだったが、数学科のアキム先生がタシケントの自然を味わうスペシャルな一日を私にプレゼントしてくださった。10時に学校でアキムさんとラプさんと落ち合う→ギター演奏大会→アキム氏の車でドライブ→途中でソムサの美味しい店でランチ→チノケント市に着きゴンドラに乗って山頂に→山頂で自然満喫→車でチャルヴァク湖へ向かう→乗馬体験→チャルバク湖からナナイ村へ→秘密の洞窟に登頂→チノケント市に戻りレストランでディナー→7時半にアパートに戻る。
ガイドブックにはない一味違ったタシケント観光、最高であった。
■ 4月14日(月) 14.Apr(Mon)
【概要】
14日は2年生の授業を行った。テーマはは1次方程式で、日本の中学1年で習う内容とほぼ変わらない。その後3年生の数学の授業を参観したがここでも1次方程式の授業であった。このクラスには、海外から来ている子どもたちが多く、中にはギフテッドというか、本当に優秀な子どももいる。子どもたちのポジティブな反応にはいつも驚かされる。
また、午後急に折り紙の授業を行うように言われとても困惑した。その顛末は後述する。
■ 2年生の授業
最初に担当の先生が方程式の解き方を説明し、生徒に当てて問題をどんどん解かせていく。ウズベキスタンではアルファリズミの国だからなのか、どの学年でも方程式を行う。そして、意味はわからなくても、計算手法をたくさん教えること、計算スキルを磨くことこそが数学だと捉えている傾向がある。私のターンになったのだが、私は逆に式の操作に頼らず、モノを使って状況をイメージし、そこから抽象化して考えるような方向で進めた。「私の年齢に33を足すと100です。私は何歳でしょう」という年齢当てから始めて、「バナナを7本買って5600ソムのとき1本はいくらか」とか、袋に謎の個数のフェルトボールを入れて、そこから玉を取り出したり加えたりして、最後に入っていたボールの個数から最初の個数を推測するという問題を行った。最後にそれらを式で表し、最初の先生の話につなげた。中学校でやるような1次方程式の解法を、教わるままに(ハンスの馬の如く)自動的に手で答えを出していく子どもたちであるが、実は簡単な年齢当て問題もできないことが明らかになる。ここがウズベキスタンの問題であり、なおかつそれは、日本の数学教育ともオーバーラップしてくるのだ。
■ 3年生の授業
2年生の授業後、3年生の数学の授業を参観した。後ろで授業を観ていたら、ある生徒が私に「1,1,2,5,13 , ? , 233,610」という数列を見せて、?に何が入るか聞いてきた。どうやら、昨日数学のコンペティッションに行ってわからなかった問題なのだそうだ。数学教師ならパッと見て、フィボナッチ数列を連想するところであるが、彼もフィボナッチ数のことをちゃんと理解していて授業後に私に丁寧に説明してくれた。
授業が終わるとみんなが集まってきて、写真を一緒にとることが常である。
わからなくても積極的に手をあげて前に出てくる子どもたちが多い。失敗することを恥ずかしいと思わないお国柄かもしれない。
■ 折り紙の授業
この日の予定表に3時から折り紙の授業というのがあったので、ウズベキスタンでも折り紙をやるんですね、私も観に行きますよ、などと話していた。ところが、教室に入ったら、7年生と8年生全員が座っていて、あとは誰もいない。生徒に確認したところ、何と、この折り紙の授業の担当は私だとのこと!しかも2時間!通訳や参観者もいない状態であった。私は日本人だが、折り紙のレパートリーは貧しく、鶴も折れないレベルである。しかしやらねばならないので、覚悟を決めた。折り紙はどこにあるのかと聞いたら、今持ってくるというので待っていたが、届いたのは、ただのA4判のカラー用紙でしかも枚数が足りない。私は日本から大量に折り紙を持ってきていたので、それをアパートまでダッシュで取りにいき、何とか始めることができた。汗だくの2時間が終わったらどっと脱力だった。
最初にハートとサクラ折った。人数が多く、教室を走り回りながら説明した。しかし、まだまだ時間があるので、紙飛行機大会をしたり、生徒から船の作り方を教わったり、ギターを持ってきて、「さくらさくら」と「春が来た」と日本の国家の「君が代」を歌ったり、そしてYoutubeからウズベキスタンの人気曲を生徒から教えてもらったりなど、後半は生徒と一緒にただただ遊んでいた。
■ 放課後の一風景
私はできるだけ、放課後玄関前に出て、バスで帰る子どもたちのお見送りをすることにしている。私を見つけると、子どもたちがどんどん寄ってきて目を輝かせて話しかけてくれる。これがあるから、多少理不尽なスケジューリングでも許しちゃうんですね。
■ 4月15日(火) 15.Apr(Tue)
【概要】
前日は突然の折り紙授業で青ざめたのだが、この日は出勤したら、1時間目の9年生担当が休んだので代りに授業をして欲しいとのこと。とりあえずいくつかの教材を持って教室に行き授業を行った。午後は5~11年生のミニ運動会が行われ、私も綱引きなどに参加した。
放課後の子どもたちのお見送りを終えて、明日の授業の準備をしていたら、隣の副校長ルームか声がかかり、先生方と生徒も交えて歌やウェルビーイングカードなどで交流を行った。
■ 9年生の授業
急遽決まったのでとりあえず教室に行き、生徒の様子を見ながら即興的に授業を進めることにした。オープニングに簡単な手品と、サイコロ投げゲームを行う。その後生徒にたずねると、無理関数を習っているということで、5円玉と糸で即席の単振り子を作り、糸の長さを25cmにすれば往復の時間がちょうど1秒になるという演示実験を行う。その後は、私が順列の授業の導入で行っている心理ゲームを行った。まず5人の登場人物による長い物語を話すのだが、今回初めて英語での説明にチャレンジした。結果を聞くと、男子は仕事と愛を、女子はモラルを大切にするということがわかって面白かった。盛り上がっていたら、生徒からあと3分なので、ぜひギターを弾いて欲しいと言われ、お調子者の私は喜んで歌わせてもらった。とても楽しい時間になった。
オープニングの手品
■ ミニ運動会(5~11年)
5年生から11年生のミニ運動会。炎天下であったが、生徒たちはそれぞれ楽しんでいた。この運動会に合わせて、私もTシャツとハーフパンツと帽子をいただいた。
■ ウェルビーイングカードなど
隣の副校長ルームからお呼びがかかり、行くとギターを弾いてくれとのこと。この日授業で弾いたのが噂になったようだ。調子に乗って弾いていたらどんどん人が入ってきた。その後、ギターの弾ける生徒にバトンタッチしてロシアのポップスを一緒に歌ったりして盛り上がった。私は途中で失礼して自分の部屋に戻って明日の授業準備の続きをしていたら、ある生徒が部屋に遊びに来た。数学の話やパズルなどをしていたが、日本から持ってきたウェルビーイングカードをやることを思い立った。彼と2人でやっていたら、興味を持った人が次々覗きに来たので、2人の副校長先生にも入ってもらった。例えばこれを日本語の授業の中で使えば、語学という括りを越えて、深みのある授業になっていくのではないだろうか。機会を見つけてまた使ってみたいと思った。
■ 4月16日(水) 16.Apr(Wed)
【概要】
5年生の授業(比例、割合の単元)を行う。担当者が8割行い、私が2割を補足的に授業をする予定だったので、教科書の問題の一つを、アニメーションをつけて解説することにしてスライドを用意した。ところが、授業直前に突然予定が変わって2時間続きの授業になり、1時間目は担当者が行い、2時間目はその授業を受けた形で私が全部行うのだといわれた。すでに授業は始まっていたので、断るわけにもいかず、授業を観ながら追加のスライドを作ってなんとか間に合わせた。夜はオーナーや管理職などのメンバーによる、私の歓迎会が行われた。タシケントに来てかなり日が立ってしまったが、オーナーの都合がつくタイミングということで、何度も延期になっていたのが急遽この日に決まったようである。
■ 5年生の授業
比例と割合という単元だったので、1ソム=0.01円、1ドル=145円と設定して、私の財布の中に入っているソムの紙幣で、1枚3ドルの布が最大何枚買えるかという問いをメインにした。ウズベキスタンの生徒はどんどん手をあげて答えを言うのはいいのだが、論理的に順を追って解答をみつけていくということはなかなかできない。複雑なものを少しずつ紐解き、徐々に解答にたどり着いていくことの面白さを経験してもらいたいところである。でも子どもたちが次々意見を出してくれるのでゴールに着地することができた。その後はPISAの問題などにチャレンジしてもらい無事に終えたが、教師が一コマの授業をするのは、その時間だけ労働しているのではなく、そのための準備の時間が大切であることも理解して欲しい。もちろんそれは日本でも同じ。
■ 歓迎会
帰る直前に、翌日の午前中に6年生の授業が入るとの連絡を受けたので、その準備をしたいし、体調のこともあるので、アンブレラ(ウォッカのワンショットの一気飲み)はNG、腰も痛いからダンスもNG、と念をおしたのだが、その1時間後には、オーナーと2人でボトル1本空になるまでアンブレラをやりまくり、激しくダンスをしまくっておりました。調子に乗ると見境なく乗ってしまう私の悪いクセである。でもとても楽しいひと時を過ごさせていただいた。
■ 4月17日(木) 17.Apr(Thu)
【概要】
6年生の授業を行った。内容は方程式。難しい問題も入れて欲しいとのオファーもあったので後半は応用問題を中心に行った。我先に手をあげて積極的に授業に参加する姿勢は好ましい。授業にあまり参加していないように見えた女の子2人が、授業後に私のところに駆けつけて、私の似顔絵を描いたと言って見せてくれた。また、ある男子生徒が自分で作った紙工作をプレゼントしてくれた。数学わからなくてもこんな参加の形もあるんだなと、なんかとっても嬉しい気持ちになった。
■ 6年生の授業
冒頭に数当てゲームを行い、そこから方程式の原理につなげてすすめた。レートの問題などを入れて少しずつ難しくしていき、終盤はウズベキスタンでは知らない人がいないイブン・シーナの数学での業績について触れ、最後は方程式の父といわれるディオファントスの墓石の問題を取り上げた。正解者がでなかったので、これは懸賞問題にした。
■ 4月18日(金) 18.Apr(Fri)
【概要】
この日は、JISを代表する英語教師であるライアン先生からお招きを受け、9年生の英語のプレゼンテーションの授業を参観させていただいた。それぞれの生徒が、おススメの本や映画について紹介するという内容であるが、第一に英語能力が高い、第二に作成したポスターのデザインのクオリティが高い、第三に、生徒が主役となって授業を進行している。プレゼン終了後、先生からアナグラムの問題が出され、私もチャレンジしたが、それを解くと、何と「WELCOME TO JAPAN INTERNATIONAL SCHOOL PROFESSOR SHIMOMACHI」という秘密メッセージが現れるというホスピタリティ溢れる仕掛けがなされていた。最後は、韓国海苔巻きをみんなで作って食べるというお楽しみ会で幕を閉じた。食材の準備も生徒たちそれぞれで分担していた。ライアン先生曰く、以前私がJISの教員研修で、「教師が過剰に介入せず、生徒に自走させる」といったことを覚えていたので、今回は生徒と先生を反転させるような授業を試みたとのこと。そして、アナグラム問題は、英語能力だけでなく、論理的に考えて文字を推理していくというSTEAM型を意識したとも話された。日本にも紹介したい素晴らしい授業であった。
■ 9年生のプレゼンテーション