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フェルトボールで数学を①

はじめに

福岡県の北九州市に、上野真弓さんという方がいらっしゃいます。

上野さんは、「算数パフォーマー」として、全国の子ども達や母親たちに、算数の面白さや奥深さに気づかせ、学び続ける子どもたちを育んでいる、とってもアクティブで志の高い「さんすう屋さん」です。

最近ではスクラッチなどのプログラミングや、「目付字」に関する独特の教材づくりを通して、情報数学を展望したコンテンツも多数つくられておられます。パリや中国など、海外でも「目付字エヴァンゲリスト」として発表される活躍ぶりで、つねにご自身をバージョンアップされているとってもステキな女性です。

 

特にオリジナルのフェルトボールを用いた実践はとても興味深く、私はそこに、無限の可能性を感じています。

上野さんによると、「遊び」の中にこそ深い学びがあるということ。更にいうと、フェルトボールを地域の大人が作り、地域の子どもたちが、それを使って遊んだり学んだりするという、地域に学びの場を創ることも目指しておられるとのことです。ちなみに、彼女の言葉によると、それを「地創地学」というのだそうです。なるほど学びの「地産地消」というわけですね。

 

 私は上野さんからたくさんのフェルトボールを購入させていただき、これまで授業などで活用してきました。

上野さん作成のフェルトボールは、大きさといい、色といい、手触り、固さ、みんな最高です。しかも磁石付きなので、授業の演示にも最適なのです。

 

何に使うの?高校生にも使えるの?などというのは野暮。数学的な考え方を育てるには、目的が限定されるものより、フェルトボールのような抽象的なモノの方が断然よい。活用の仕方は無限であり、その活用法を考えることで、創造性が磨かれます。ちなみに、上野さんのお子様は東大に進まれていますが、それはきっと、上野さんの学びのポリシーを受け継いで、クリエイティブな学びを楽しまれていたからだろうと推察しております。

 

そんなわけで、このフェルボールを使った教材を何回かにわたって紹介していこうと思います。

その1 四角形に玉を並べる(中1)

中学1年の教科書の文字式の単元に、左の様な問題があります。n×nに碁石を並べたときの個数を考えるものです。

これを、黒板上にフェルトボールを並べて、どのように考えれば、一般式を作ることができるかを生徒に考えてもらいます。

そして、一般式を作ることで、1辺の石の個数を何個にしてもすぐに個数を導けることを納得してもらいます。

生徒はいろいろなアイデアを出して、フェルトボールを使って説明してくれました。


以下に生徒のアイデアを紹介します。

■Aさん

 まず、n×4を考え、重複して数えている頂点の4個を引くというものですね。

■Bさん

 1個ずらすと、nー1個の石が4セットあると見ることができますね。

■Cさん

 頂点を除いたnー2個のところを計算し、それに頂点の4個を足すという考え方ですね。

■Dさん

 たてn個の部分と、横のnー2個の部分に分けて求めていますね。

 

それぞれ考え方は違うけれど、同じゴールにたどりつきましたね。

 

数学は山登りに似ています。いろいろなコースを歩いても、皆同じ山頂にたどり着きますね。

そして、山登りは、山頂を目指すことが目標ですが、歩きながら景色を楽しんだり、花や虫を観察したり、一緒に登る人と会話を楽しんだりすることも、また大切なことですね。

数学も同じです。解答を得るまでのプロセスを、皆で考え、それを共有していくことで、答えにたどり着かなくても大切な宝物を得ることができると思います。

そんな話を生徒にしました。

<オマケ> 薬師算のこと

ここで述べた玉の数を求める問題と関連する話題として、薬師算を紹介します。薬師算とは、n×nに玉を並べたものを、タテがnになるように玉を詰めて長方形化したときに、余った玉の個数を聞くだけで、全体の玉の個数を当てるというものです。2016年に白板ソフトというアプリで動画を作ったものをyoutubeにアップしております。

ご覧ください。


その2 音階の話(パズル・音楽)

上野真弓さんから最初にフェルトボールを購入したのは、2016年の1月頃だったと思います。そのとき上野さんから送っていただいたのは、12個のフェルトボールと、五線紙付きのフェルトボールボードでした。

当時、上野さんは、「数の世界は、万人に平等。戦地や貧困等で、学べない子どもたちに、自由な発想を促すフェルトボール算数を是非とも拡げたい」という熱い思いを抱いておられ、とても感動したことを記憶しています。

 

五線譜付きフェルトボールのアイデアも面白いですね。フェルトボールをオタマジャクシに見立て、楽譜を作っていくことで、横軸が時間で縦軸が音程を表すような平面座標上に点をプロットしていくイメージも生まれます。つまり、楽譜はある意味グラフであるということが実感されますね。

 

さて、私は送られてきたフェルトボールを並べながら、和算の「継子だて」について考えていました。継子だては、室町時代に考案されたパズルのようで、吉田光由の『塵劫記』にも記されています。円形にいくつかの碁石を並べていくつかおきに石を拾っていき、最後に残る石はどれかを当てるというパズルです。

 

継子だてを考えているうちに、これを、12音階として考えてみると面白いのではないかと思って、しばらく遊んでみました。もう8年も前の実践ですが、思い出しながらそのことについて記しておきたいと思います。

左の写真のように、円周上にCから半音ずつ上昇する12個の音階と割り振ったフェルトボールを配置します。

何かこれだけでワクワクしますね。

C C# D D# E F F# G G# A A# B に順に1~12までから数を対応させることにします。

今、出発地点をC(1)にして、反時計回りにいくつかおきに点を辿り、ふりだしに戻るまで進めて、数列を作っていくことにします。


例えば、3つおきに辿ると、1→4→7→10と進んで再び1にもどりますが、これを音階で表すとC →D#→ F#→ A となりますね。公差が12と互いに素である1,5,7,11の場合は、すべての数を1回ずつたどって1に戻ります。これは、円分多項式の原始根の話に繋がるのですが、今はそれは置いておきましょう。

いくつかおきにとる数(公差)を色々変えてその音階について調べてみました。

■公差1の音階(半音音階(chromatic scale))

半音ずつ上昇・下降していく音階、

クロマチックスケールです。


■公差2の音階(全音音階(whole tone scale))

 

ジャズではブレイクやブリッジのときなど、調性が一時失われるときによく用いられます。「A列車で行こう」など。


■公差3の音階(減音音階(diminished scale))

 

これは、Cdim7コードの分散音になっています。ちょっと不安な印象を与える疑終止や、経過コードや代理コードに用いられます。


■公差4の音階(増三和音(augmented triad))

 

これは、ルートに長3度と増5度を加えたものになっています。Caugというコードの分散音です。不安定な和音なので疑終止や経過コードに用いられます。


フェルトボールをつまむと、いろいろな音程の音がでれば面白いなあなどと思いながら、でもそれは、想像の世界の方がいいのかもしれない、などとも思いなおしたりしながら、童心にかえってフェルトボールを楽しんでおりました。

上野さんありがとうございました。

その3 緑表紙小3の問題(数の分割)

「緑表紙」とよばれる算数の教科書があります。昭和初期に発行された、尋常小学校用の算術書であります。

 

これが復刻されたとき、私は飛びついて買いました。執筆陣の並々ならぬ意欲とポリシーが伝わる、なんとも骨太の内容です。算数といって侮るなかれです。その中の、小学校3年生上巻に次のような問題があります。


全部で○の数が36個あるので、これを6で割ると6。つまり、6個ずつに分かれるように切ればよいという話です。

でも、そこには何とも数学的な面白さや奥深さが潜んでいます。

もう8年前の話ですが、この問題を、フェルトボールを使ってちょっと遊んでみました。

 

一般的には、下の左の写真のように切り分ける方法が思い浮かびます。でも、個数が同じならば、下の右写真のように、全部形を変えて切り分けてもいいですね。


これは「ヘキソミノ」(Hexomino)

による敷き詰めです。

因みにヘキソミノとは、左の図のように、正方形を6個つなげてできる図形で、その総数は全部で35種類です。

 

さて、今度は、全部を合同の図形で切り分ける方法について考えてみましょう。

 

最初の長方形の分割だけではなく、以下の様に結構たくさんあることがわかります。




上にあげた4つの写真のものは、みな3×4の長方形による単純な周期的しきつめになりますが、最後のP型ヘキソミノによる分割は、下の写真のように、更に次のようなパターンなどにも分割できます。


上の2つはどんな合同変換によって、周期的に平面を敷き詰めていくのか興味が湧きます。タイリングアートの問題に繋がりそうですね。

では、今度は2種類のパーツで分割する方法は何通りあるか考えてみましょう。

多くは、下の左の様に4×3の長方形による繰り返しなのですが、下の右のものはちょっと違いますね。


面白いなあ。

そんなことを考えていると、これは、ヘキソミノの世界や、合同変換群、テセレーションなど様々な方向に発展される、高度な問題ではないかと気づきます。

子どもたちは、フェルトボールなどでアソビながら、この問題に向き合うことによって、様々なことに気づくのではないか、そして数学の美しくも不思議な世界に関心を抱くようになるのではないか、そんなことを思いました。

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コメント: 1
  • #1

    安木順子 (土曜日, 16 3月 2024 16:09)

    はじめまして。
    私は、孫が小学生の時に上野先生のFacebookを見つけて、これは凄い!と思いフエルトボールを購入して送りました。
    ですが、親が数学教師の資格を持っていて(教師では無い)、オモチャくらいにしか思ってくれなくて、そのままになってしまいました。
    その孫が今、高校生になり、勉強に手こずっています。
    余談を書いてしまいましたが、私は、偶然見つけた上野先生のフエルトボールを使っての勉強は、世界に通じたソロバンや公文式に匹敵する勉強法だと思っています。
    私は、ただFacebookに「いいね」しか応援の手立てが無く、いつも、勿体なぁと思っていました。
    そういう訳で、下野先生が取り上げてくださったことを大変嬉しく思っています。
    フエルトボールが世界に羽ばたいて欲しいと願っています。
    拙い文章ですみません。
    フエルトボールを使っての講義、ありがとうございました。

    すみません。このコメントは、送ったつもりでしたのに、送り損なっていました。私の気持ちをお伝えしたかったので大変遅くなりましたが送信させていただきます。拙い文ですみません。上野先生を応援している者です。